都立高校統廃合の第二次実施計画案に対する疑問

                          岩 上 義 信(行政書士)

 東京都教育庁は平成11年6月29日、都立高校統廃合の第二次実施計画案をまとめた。
これは将来の少子化と、生徒の多様化、規模と配置の適正化を考慮し、36校を統廃合し
て18校の学校をつくるという壮大なスケールの計画となっている。

 この計画に対しては、父母、PTA、OB等による撤廃を求める署名活動、また地元議
会からは慎重に検討して欲しい旨の意見書が出されるなど、各種の反対運動が盛んになっ
ている。また中高一貫6年制学校の設置を検討してきた都立大学が、東京都の財政難を理
由に「独自に運営する新設校の設置は困難」との判断を示している等、気になる点も多い。

 この計画が反対される理由は大きく2つに分けられる。まず第一に東京都の未曾有の財
政難である。果たして反対を押し切ってまで新校を建設する必要性があるのかという疑問
が出てくる。もうひとつは統廃合そのものの必要性、及び統廃合するにしても教育庁が示
している選定基準に、関係者が納得できない点が多いということである。

 財政難に対して教育庁は、第二次実施計画は、平成12年から14年の中期計画であり、
現在の厳しい財政状況の中でも計画の予算化をしていくとのコメントをしている。しかし、
土屋たかゆき都議会議員からは第4学区の志村高校と北野高校の統廃合について「志村高
校と北野高校の統廃合はどうみてもおかしい。私からみても充分使える校舎です。その両
校をつぶして、六十億をかけて新たに学校をつくるというのだから、財政難というのにば
かげた話だ。」との疑問も投げかけられている。

 統廃合後の跡地についても、教育庁側は売却するか再利用するかはまだ未定とのことで
あるが、財政難を考えればいずれ売却することも視野に入れていることは想像に難くなく、
この場合、現在の選定基準である建物の古い学校、駅から遠い学校を統廃合するという案
は、かえって裏目にでる可能性もある。

 むしろ新しいタイプの学校創設に対しては、既存の施設を有効活用するとか、あるいは
公立よりも変化への対応性のある”私学”に助成金を出すなどして多様化を促し、民事活
性化にも繋がるような道を探るなど、もっと経済効率性のある方策は出来ないものかとの
思いもわいてくる。

 また統廃合の必要性については、教育庁は多様な選択科目の配置や学校行事、生徒会活
動、クラブ活動などを十分に行うためには1学年に6学級は必要との方針を取り、1校当
たり18学級720人を基準にし、規模と配置の適正化が必要としている。そして、この
計画を将来の生徒のためにやるとしている。

 しかし、昨今新聞紙上を賑わしている金融機関の統廃合・大型合併などの類は、厳しい
競争を経ての経営努力をしている結果であり、今回の都立高校統廃合計画は、逆に競争を
経ずに数を減らすという、いわば需給調整に近い性質を持っているのではないだろうか。
今後、都立高校が再チャレンジ組や社会人など、地域に密着した良質なサービスを提供し
ていくためにも、安易な需給調整はすべきではない。上からの統廃合は、学校・生徒・教
職員から活気を奪い、学校行事どころか学校そのものの活力を奪うことにも成りかねない。

 また生徒の多様化のことを考え合わせれば必ずしも大規模校が良いとは限らず、むしろ
少人数教育、小規模学級の方に適正がある生徒も存在することから、この選択肢を減らす
というやり方は、教育の機会均等を奪うものであり、また偏差値重視の教育からの脱却の
機会をも奪い、果たして本当にこの計画が、将来の子供達も含めた、都立高校の知的サー
ビス利用者のためになるのかとの疑問もある。

 次に、教育庁の出した統廃合の対象となる高校の選定基準であるが、@「校舎の老朽化、
改築が必要なこと」、A「校舎面積、敷地が狭いこと」、B「交通の便が悪いこと」、C
「二次募集の実施や中途退学者が多い」など、概ね四つの要件を示しているところである
が、本来の学校の良し悪しとは関係のないものまで含まれている。

 建物の新しい学校が良い学校で、古い学校は悪い学校、駅から5分の学校が良い学校で、
15分の学校は悪い学校では、関係者には筋が通らない。その明確な相関関係を示しても
らいたいものである。

 以上のことを考え合わせると、今回の都立高校統廃合の第二次実施計画案に、再考すべ
き点は多い。財政は大丈夫なのか? 将来の生徒の多様化にどう対処すればいいのか? 
今一度考えてみる必要があるのではないだろうか。

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